“罪悪感”……誰もが一度はチクリと感じたり、ズッシリと抱え込んだりしたことがあるのではないでしょうか。今回は、この“罪悪感”について、こころの専門家である心理療法士が罪悪感を感じる理由と対処法を紹介します。
まず、“罪悪感”という大きな概念は、その発生機序(=何をきっかけに生じたか、どのような経緯で芽生えたか)によって、いくつか分類できます。ここでは分かりやすい場面を例に2分類で簡単に解説しましょう。
あったほうがいい罪悪感

ひとつ目は、犯罪行為・人を傷つける行為など、明らかに悪いことをした場合に伴う罪悪感です。内容によっては、慰謝料・損害賠償など、目に見える形で罪悪感やお詫びの気持ちを示す手段がある場合もあります。
「ちょっと騙せそうだな」「誰も見てないから大丈夫だろう」と、何かしらの悪さを思いついてしまった経験はありませんか。でも、ほとんどの場合で実行はしないでしょう。正しい判断ができます。
正しい判断ができるのは、あなたに自制心・道徳観・倫理観・他者視点などがあるからです。また、そこには罪悪感も含まれていることでしょう。罪悪感が欠けていると、明らかな犯罪行為を実行するハードルが非常に低くなってしまいます。
社会で生きる人間にとって、罪悪感は正しい選択へ導くための必要不可欠な感覚です。同じ過ちを繰り返さない、内省を促す面でも重要な意味を持ちます。
感じなくてもいいはずの罪悪感

ふたつ目は、明らかに悪いとは言い切れない事柄に対して伴う罪悪感です。客観的にはあなたが100%悪いわけではないのに、あなた自身は「全て私が悪い」と思い込んでしまい罪悪感に苛まれてしまう。そんな経験もきっとあるでしょう。
この『感じなくてもいいはずの罪悪感』を抱いてしまう理由と対処法をお話しします。
感じなくていい罪悪感を抱く理由①:自罰傾向がある
特徴の一つに、自罰傾向がみられます。自罰とは、自分は罰せられるべきことをしてしまった、自分で自分を罰しなければならない、と捉えることです。自責感も伴います。自罰・自責などをみる心理検査の代表として、『PFスタディ(絵画欲求不満テスト)』というものがあります。
思い通りにならない、イラッとさせられる……そんな欲求不満の場面がイラストで示され、その一コマにセリフを書き入れる。これがPFスタディです。欲求不満状況に対する反応を分析し、性格傾向をみる心理検査です。
具体例:遠足にお弁当を持っていくのを忘れてしまったAくん
◆他責的:「お母さんがリュックに入れなかったのが悪い!」「バスに乗る前に先生が確認してくれたら早く気づけたのに!」
このようなセリフを書いた方は、Aくん以外の他者に責任があると捉えています。
◆自責的:「チェックを怠った僕が悪い……」「僕はなんてバカなんだろう……」
Aくん自身が責任を感じているセリフです。
◆無責的:「お弁当は残念だけど、おやつは忘れてなくてよかった!」「友達に少しずつ分けてもらおうかな」
このようなセリフを書く方は、自分もお母さんも責めてはいません。
具体例:続き
Aくんが帰宅後のお母さんの反応も見てみましょう。
◆他責的:「準備はAが自分ですべきでしょ」「先生が確認してくれなかったなんて、ひどいわね」
お母さんは、自分以外の他者に責任があると捉えています。
◆自責的:「ごめんね、お母さんがちゃんと確認すればよかったよね」「Aくん、惨めな思いをさせてしまって、全部お母さんが悪いわ」
母親自身が責任を感じているケースです。
◆無責的:「お弁当忘れてもおやつはあってよかったね!」「優しいお友達がたくさんいるんだね」
このようなセリフなら、お母さんは誰も責めていません。
さて、この例からもわかるようにAくんの立場でもお母さんの立場でも、必ずしも自責的反応をするとは限りません。しかし、人によっては必ず自責的な反応を選んでしまうでしょう。感じなくてもいい罪悪感を強く抱く傾向がある人は、一定数います。
感じなくていい罪悪感を抱く理由②:自分で決めた禁止事項が多い

法で定められた禁止事項に反すると犯罪になります。その実行には罪悪感が伴うことが望ましいでしょう。同じように、“マイルールとしての禁止事項”が多い方は、罪悪感を抱く機会が多くなります。しかし、マイルールから感じる罪悪感は『感じなくてもいいもの』である可能性が高いのです。
具体例:レジ打ちの仕事をするBさん
Bさんは「絶対にお客様を待たせてはいけない」と思い仕事に励んでいます。でも、土曜日の夕方はいつも長蛇の列ができてしまい、Bさんはそのたびに「お客様を待たせてはいけないのに、私のせいで待たせてしまった」と罪悪感に苛まれます。
「今日もお客様が多くて忙しかったな」「土曜の夕方は仕方ない」と捉えることができません。Bさんが感じなくてもいい罪悪感を募らせているのです。
具体例:ダイエット中のCさん
「甘いもの全て禁止」「21時以降は何も食べてはいけない」とダイエットのマイルールを定めているCさん。でも、たまに深夜に甘いものを食べてしまうことがあります。「禁止事を破ってしまった」と自分に対する罪悪感に襲われ、自己嫌悪も出てしまいます。
誰かに迷惑をかけたわけではありません。それでも、Cさんは罪悪感で押しつぶされそうになってしまいます。
対処法は、早めに周囲に尋ねること

罪悪感を長期的に抱き続けると、心身に不調が出る可能性があります。
あなたは本当に悪いことをしてしまったのでしょうか? 可能であれば罪悪感を抱いている相手に直接、尋ねてみましょう。難しければ、客観的な立場にいる他の人でも良いです。
「〜の件で謝りたいのですが」「〜って、私が悪いよねぇ?」と確認してみてください。もしかしたら、あなたが思っているよりも、他者は気にしていないかもしれません。
「それって仕方ないんじゃない?」「えーっ、それはこちらこそ謝ろうと思ってたよ〜」など他者からの捉え方が入ると、あなたの罪悪感は随分と緩和されるでしょう。
話すだけで気が楽になることも多いです。もしも話を聞いてもらえる環境がないのなら、専門家を頼るのも手です。臨床心理士のいる相談機関については、こちらで検索なさってみてください。