- 「裕福な親のもとに生まれていたら、人生勝ち組だったのになぁ」
- 「もっと優れた遺伝子を受け継いでいたら、受験や就職もラクだったはず!」
自分の親に何らかの不満を抱く人は少なくありません。
このように親に不満を抱く人たちが自身の境遇を嘆く中で生まれたのが「親ガチャ」という言葉です。今回は「親ガチャ」とは何かを解説すると共に、「親ガチャにハズれた!」と感じた時の人生の立て直し方をご紹介します。
親ガチャとは?

『親ガチャ』はネットスラング
『親ガチャ』はネットスラングのひとつです。ガチャとはソーシャルゲームでのキャラクターやアイテムをランダムで入手するシステムのこと。このガチャになぞらえて「どんな親や家庭環境のもとに生まれるかはランダムで、自分では選べない」と表現したのが親ガチャです。
そして、親に何らかの不満を抱いている状態を「親ガチャにハズれた」と表現しています。「親ガチャにハズれた」という表現を巡っては「自分の苦しみを正しく表現している」と賛同する声もあれば、「何でも親のせいにすべきじゃない」と反対する声もあり、今もなお様々な議論が巻き起こっています。
親に対する様々な水準の不満が込められている
このように「親ガチャにハズれた」という表現に対して意見が対立する理由として、親に対する様々な水準の不満が一括りにされていることが挙げられます。
アメリカの心理学者マズローは人間の欲求を5段階に分類しました。
- 生理的欲求:生きるために必要な食欲や睡眠などの欲求
- 安全欲求:心や身体の安全を確保したいという欲求
- 社会的欲求:家族・学校・職場などの集団に所属し、受け入れられたいという欲求
- 承認欲求:他者から自分の存在を認められたいという欲求
- 自己実現の欲求:自分らしく生きていきたいという欲求

図 1 マズローの欲求のピラミッド
マズローはこの5つの欲求をピラミッド型の序列にまとめ、人間は下位の欲求を満たすと、1つ上位の欲求を満たしたくなると提唱しました。(図1)
つまり、生理的欲求から始まり、生理的欲求が満たされると安全欲求を満たしたくなり、安全欲求が満たされると社会的欲求を満たそうとする……と考えたのです。
「親ガチャにハズれた」と訴える人たちが満たせなかった欲求は、人によってさまざまです。親からの虐待に苦しむ方は、生理的欲求や安全欲求を満たせなかったと感じているでしょう。一方、親の能力・経済力・容姿などによって「思うような人生を歩めていない」と考えている人は社会的欲求や承認欲求など、より上位の欲求が満たせていない状態です。
「親ガチャにハズれた」という言葉を聞いて不快な印象を受ける人は、親ガチャで満たせなかった欲求を社会的欲求や承認欲求の水準で見ている可能性があります。
一方、「親ガチャにハズれた」と訴える人の中には、生理的欲求や安全欲求を満たすことさえままならない過酷な子ども時代を生き抜いてきた人も含まれています。
このように、同じ「親ガチャにハズれた」という表現でも、それぞれの想いは異なります。そのため、賛否が大きく分かれるのだと考えられます。
親ガチャにハズレたと感じた時の人生の立て直し方

親に対する不満を整理する
まずは「親ガチャにハズれた」と感じる背景にある親への不満点を整理しましょう。
不満点を整理する際には、親に対して不満に感じていることを思いついたものからどんどん紙に書き出すのがおすすめです。
「自分の不満なんてわざわざ紙に書かなくてもよく分かっている」という方は、友人に話すつもりで言葉にできるか確かめてみましょう。スラスラと説明できればOK。言葉にできない部分があった方はそこだけ「どうすれば言葉で説明できるか」と考えてみてください。
親への不満点がピックアップできたら、マズローの欲求ピラミッド(図1)のどの段階に該当するかをチェックしてみましょう。
自分の人生を取り戻すために必要な支援やスキルを入手する

親への不満がどの欲求段階に当てはまるか分かったら、その欲求段階に合わせて必要な支援やスキルを入手しましょう。
①:生理的欲求や安全欲求が満たせていない場合
これらの欲求の充足が親によって奪われている場合には、心と身体を守るための環境を整える支援を受けることが最優先です。
行政サービス
市役所や区役所では「家庭相談」「人権相談」「法律相談」といった無料相談が実施されています。自分が置かれている状況を説明すれば、必要な支援につないでもらえます。
法テラス
「親からの金銭の要求にどう対応すればいいか」「親から自立する際に必要な法的手続きは?」など法律が関わるお悩みを無料で相談できます。法テラスへのアクセスはこちらです。
②:社会的欲求や承認欲求が満たせていない場合
「親ガチャにハズれたから自分は大切にされない」「親ガチャにハズれたせいで認めてもらえるような人間になれなかった」と感じている人に見ていただきたいのが図2です。

図 2 さまざまな心理的形質における遺伝・共有環境・非共有環境の相対的寄与率
参考資料:安藤寿康(2017)行動の遺伝学-ふたご研究のエビデンスから 日本生理人類学会誌22(2) pp107-112.
この図を見ると確かに親の遺伝によって差が出る能力はたくさんあります。しかし、自尊感情や一般的信頼などの心理的な面は環境によって変化する余地が大きいことが分かります。自尊感情は「自分は尊重されるべき存在だ」という気持ち。一般的信頼は「他者や社会は信頼できる」という感覚を指します。
つまり、「自分は尊重されない」「誰も信頼できない」と感じる場合、親ガチャにハズれたことよりも自尊感情や一般的信頼など肯定的な感情を育んでくれる環境を見つけられていないことの方が問題だといえます。
社会的欲求や承認欲求が満たせていない人は、以下の行動を通じて『自分を受け入れてくれる場所』や『自分を認めてくれる人』を見つけていくのがおすすめです。
- 自分を受け入れてくれる環境を見つける:転職、趣味のサークル、SNSなど
- 受け入れてもらえる自分になる:ビジネススキルの向上、ソーシャルスキルトレーニングやアサーショントレーニングでコミュニケーション能力アップなど
他者と良好な関係を築けていれば、社会的欲求や承認欲求は満たされます。「親ガチャに外れたせいで」という不満は、薄くなっていくでしょう。
「親ガチャにハズレた」と感じる人生の立て直し方:まとめ

「親ガチャにハズれた」と感じると、「親のせいで」と親を責めたくなります。しかし、親を責めてもあまり意味はありません。
親への怒りや復讐心に囚われると、自分の人生の中心が『自分』ではなく『親』になってしまいます。そして自分の人生を幸せにするチャンスをどんどん失うことになります。
親ガチャにハズれて人生に不満がある人ほど、できるだけ親以外の人とつながりを持ち、親への執着を手離していくことが、自分の人生を良いものにする近道なのです