私たちの心には「大人になっても子どもの部分がある」と考えられており、その子どもの部分を指して『インナーチャイルド(内なる子ども)』と呼んでいます。この記事ではインナーチャイルドがどのように生まれ、私たちにどんな影響を与えるかを紹介すると共に、インナーチャイルドの癒し方を解説します。
インナーチャイルドとは?

インナーチャイルド(内なる子ども)とは、大人になっても維持されている子どもの頃の思考・行動パターンです。スキーマ療法における概念のひとつとして使われています。
スキーマ療法はジェフェリー・ヤングにより開発された心理療法です。『スキーマ』とは人の価値観・信念・物の見方などを指します。
スキーマ療法
スキーマ療法ではとくに『早期不適応スキーマ』にアプローチします。早期不適応スキーマとは、子ども時代に家族や環境に適応するために必要だったスキーマのうち、大人になってから自分を苦しめるようになるものをいいます。
たとえば、「私の言うことを聞いていればいいの」と親に叱られ続けた子どもは、これ以上傷つけられないために『自分で判断してはいけない』というスキーマを学習します。
実際に自分では判断せずに親の言うことだけを聞いていれば、親は機嫌が良く怒られることがないかもしれません。子どもは『自分で判断してはいけない』『自分で判断しなければ傷つけられることはない』という確信を強めるでしょう。
早期不適応スキーマ
さて、この子どもが大人になってからも『自分で判断してはいけない』というスキーマを維持していたとしましょう。親と同じように職場の上司からの指示を待っていると「まずは自分で考えてみなさい」と叱られたりするかもしれません。
自分で考えようとすると『自分で判断すると叱られる』と感じ、考えることができなくなります。しかし、自分で判断しないと上司には叱られます。
子ども時代は『自分で判断してはいけない』のスキーマが役立ちました。しかし、もはや早期不適応スキーマです。に変わります。それでも自分の心を守る方法を他に知らないために、子どもの頃と同じスキーマを使い続けようとします。この心の動きが、インナーチャイルドです。
インナーチャイルドの早期不適応スキーマの種類を解説

スキーマ療法では、インナーチャイルドが用いる早期不適応スキーマとして、次の18種類が想定されています。
1.見捨てられ/不安定スキーマ:安定した関係が築けず、今関わりのある人もすぐに自分を見捨てて去っていくと感じる
2.不信/虐待スキーマ:人は自分を虐待するような存在ばかりであるため、信じられないと感じる
3.情緒的剥奪スキーマ:自分は誰からも愛されないと感じる
4.欠陥/恥スキーマ:自分は欠陥ばかりの人間で、恥ずかしい存在だと感じる
5.社会的孤立/疎外スキーマ:自分はどこに行っても疎外され、孤立する存在だと感じる
6.依存/無能スキーマ:自分は他者から助けてもらわないと何もできない人間だと感じる
7.損害や疫病に対する脆弱性スキーマ:突然に起こる損害や疫病に対して、それを防ぐことも、対処することもできないと感じる
8.巻き込まれ/未発達のスキーマ:親をはじめとする他者に感情的に巻き込まれ、自分自身の主体性が発達していない
9.失敗スキーマ:これまでの自分を「失敗ばかり」と感じ、これからの自分も「どうせ失敗する」と感じる
10.服従スキーマ:自分の気持ちや欲求を犠牲にして他者に服従しなければ攻撃されたり見捨てられたりすると感じる
11.自己犠牲スキーマ:自分より他者を優先しなければならないと感じる
12.評価と承認の希求スキーマ:他者から評価・承認を受けることに過剰に囚われている
13.否定/悲観スキーマ:ネガティブな側面ばかりに注目し、いつも不安や心配を抱えている
14.感情抑制スキーマ:自分の感情を抑え込み、何も感じないかのようにふるまう
15.厳密な基準/過度の批判スキーマ:自分や他者に対して高すぎる基準を設定し、それを満たさない場合に過剰に批判する
16.罰スキーマ:自分も他者も失敗したら厳しい罰を受けるべきだと感じる
17.権利欲求/尊大スキーマ:他者より優位に立ち、自分のやりたいようにやることに価値があると感じる
18.自制と自律の欠如スキーマ:自分の気持ちや欲求を適切にコントロールできない
インナーチャイルドがこれら早期不適応スキーマを使い続けると、『自己否定感が強まる』『対人関係がうまくいかない』のような問題が起きてしまうこともあります。心身が過剰なストレスに晒され、うつ病をはじめとする精神疾患にかかるケースも見られるのでご注意ください。
インナーチャイルドの癒し方

インナーチャイルドの存在を確かめる
まずはインナーチャイルドの存在をしっかり確かめることから始めます。インナーチャイルドに名前をつけ、「〇〇ちゃん」「××くん」と呼びかけてみましょう。また、朝起きたら「おはよう」と声をかけたり、食事の時間には「何食べようか」と話しかけたりと、日々声をかけてみましょう。
最初のうち、これまでないがしろにされてきたインナーチャイルドは反応してくれないかもしれません。しかし、1つの人格を持つ存在として大切に扱い続ければ、次第に応答してくれるようになります。
インナーチャイルドの欲求を満たす
インナーチャイルドが不適応となったスキーマを手離せないのは、他者から傷つけられるのが怖いからです。
だからこそ、インナーチャイルドと対話ができるようになったら「あなたの欲求は私が満たしてあげる」「あなたが苦しい時は私が守る」と伝えていくことが大切。
もし、インナーチャイルドが「遊園地に行きたい」と言うのなら、一緒に行ってあげてください。傷ついて泣いていたら「つらかったね」と抱きしめてあげましょう。「やってみたいけどできないかも」と尻込みしているのならは「できるよ!」と励ましてあげます。
あなたが親にして欲しかったことを想像してみてください。そうすれば、インナーチャイルドへの接し方が、わかりやすくなります。インナーチャイルドの欲求を満たし続ければ、やがてインナーチャイルドの側で「もうこのスキーマを使い続けなくても大丈夫」と安心し、スキーマを手離すことができるでしょう。
インナーチャイルドの癒し方:まとめ

インナーチャイルドが早期不適応スキーマを手離さないことで、大人のあなたは苦しい思いをしています。「インナーチャイルドなんていなくなってほしい」と感じているかもしれません。
しかし、インナーチャイルドはあなたを一生懸命守ってくれた存在でもあります。守ってきてくれたことに感謝をして、これまでの傷を癒すと共に、「これからはもう傷つく心配はないよ」と伝えていきましょう。そうすれば、あなたが早期不適応スキーマで苦しむ機会は随分と減るでしょう。
なお、この記事を執筆するにあたり以下の資料を参考にさせていただきました。
加藤雄士(2021)スキーマの概念とスキーマ療法のレビューに関する一考察―スキーマの修復に関する人材開発手法の研究のために― 産研論集(関西学院大学)48 pp63-75.