私たち日本人は、世界の中でも心配が強い国民性があると言われています。心配は不安な気持ちに直結しますが、その強さは人それぞれです。ここでは、不安により日常生活へ支障をきたしてしまう「不安障害」について、心の専門家である臨床心理士が解説します。後半にチェックリストがあるので、興味のある方は試してみてくださいね。
「不安障害」から「不安症」へ

不安障害とは、不安を主な症状とする精神疾患です。特定の対象や状況に対する不安や恐怖が過度に心を占めてしまうと、精神的に苦しんでしまいます。不安や恐怖を感じる状況を避けようとするため、日常生活にも支障が出てしまうのです。
実は現在、聴き慣れた「不安障害」という言葉は、医療現場では使用しないよう推奨されています。
2013年に修正・発表された、米国精神医学会による精神疾患の診断基準・診断分類(通称DSM-Ⅴ)により、「障害」という部分が「症」に変更され、「不安症」と呼ばれるようになりました。どちらも同じ意味ですが、変更の理由の1つは「障害」という名称が重篤で治らない疾患だとイメージされやすいからです。
つまり、適切な治療や対処次第では「不安症」と上手に付き合っていけるのです。
不安症の種類

不安をきっかけとする精神疾患には、さまざまなタイプがあります。不安や恐怖、回避行動を引き起こす対象や状況の種類により、以下のような疾患が不安症群に含まれます。
社交不安症
人前で注目が集まるような状況で、強い不安や恐怖、緊張を感じてしまう状態です。「何か失敗して自分が恥をかくのでは」と心配や強い不安を感じてしまいます。社会不安障害、あがり症、赤面恐怖症などと言われることも。
パニック症
繰り返される予期しないパニック発作が起きる障害です。パニック発作は他の精神疾患でもみられますが、パニック障害の特徴は、予期されないパニック発作が反復することです。パニック発作が起きると、激しい恐怖や不快感の高まりが数分以内にピークに達し、動悸や発汗などが伴います。
全般性不安症
生活のさまざまな場面で過剰な心配や不安がつきまとい、それが慢性的に続く(診断基準では6ヶ月以上)のが特徴です。不安に伴ういろいろな精神身体症状が現れます。
広場恐怖症
強い不安に襲われたときにすぐに逃げられない。または、助けが得られそうにない状況や場所に恐怖や不安を抱く状態です。多くの場合、そのような状況や場所を避けたり、多大な苦痛を感じながら耐えたりします。
限局性恐怖症
特定の状況や環境、または対象に対して非現実的で激しい不安や恐怖感が持続する状態です。 恐怖症によって不安が引き起こされ、特定の活動や状況を避けるようになるため、日常生活に支障をきたすことがあります。
そもそも「不安」ってなに?

不安を感じる状態は、もともと異常なことではありません。危機が迫っているときに「危ないぞ!」と身体が危機に対して立ち向かえるように警戒を促す……これが不安の正体だからです。不安は、私たちが生まれ持って備えている能力の1つと考えられます。
不安を感じるシグナルによって、危険な場面に備えたり、危険を回避したりしやすくなったりします。なので、不安自体を取り除こうと考える必要はないのです。しかし、この不安な気持ちが強いゆえに、日常生活や社会生活に支障が出てしまうと問題です。
- 眠れない
- 家を出るのに時間がかかる
- 乗り物に乗ることができない
- 頻繁にミスをすることで仕事に集中できない
- 慣れない人間関係が苦手で疲れてしまう
このように不安が昂ることで日常生活や社会生活に支障が出てしまう方は、気質としての「不安性」ではなく「不安障害」の可能性があります。
以下にチェックリスト※1をご用意しましたので、「もしかして不安症かも?」と思われる方は試してみてください。
【不安症チェックリスト】

以下の項目のうち、6か月以上継続してある症状をチェックしてください。
- □漠然とした不安が続いている
- □肩こりが続いたり、疲れやすかったりする
- □落ち着きがなく、集中力もなくなる
- □人前で何か行動したり話をすると、恥をかいてしまうのではないか強い恐怖感がある
- □寝つきが悪く、夜中に何度も起きる
- □人前でのスピーチ、発言・発表、周囲に人がいるところでの食事、などが苦手
- □人前に出ると、顔が赤くなったり大量に汗をかいたり、震えたり、吐き気がする
- □閉所恐怖・広場恐怖・乗り物恐怖などさまざまな形が見られる
- □突然、動悸がして死んでしまうのではと思ったことがある
- □呼吸困難感・発汗・めまい・ふるえ・過呼吸などが伴うことがある
- □発作の起きていないところでも、「また発作がおきるのでは」という予期不安がある
- □電車やバス、人ごみの中で落ちつけない
- □イライラしたりそわそわする
複数に該当する場合は「不安症」の可能性があります。
※このチェックリストは不安症の中でよくみられる症状をまとめています。診断はできませんので、心配な方は適切な医療機関を受診してください。
「不安症」を治したい!適切な治療と対処とは

ではこの「不安症」はどのように症状をコントロールしたり、改善を図ったりすることができるのでしょうか。治療法や自分でできる対処法をご紹介します。
薬物療法
心療内科や精神科を受診することで受けることができる治療法です。
薬物療法は根本的な解決方法ではありません。あくまでも生活に支障をきたす症状を抑えるだけです。たとえば、頭が痛い時に頭痛薬を飲んで痛みを取るように、「頭痛の原因はなくなってはないけれど、痛みだけはなくなっている」ということを理解して付き合っていく必要があります。
症状は一時的にはなくなりやすいため、「今現在出ている症状をある程度コントロールする」という点では有効です。しかし、その症状を引き起こしている根本的な原因が解決できたわけではありません。そのため、薬で安心できる状態を保ちつつ、精神療法で根本解決を目指すことが大切です。
精神療法
カウンセリングやセラピーと呼ばれる方法です。医師や臨床心理士と話し合いながら、不安や恐怖の原因となっている考え方の傾向を変えていく取り組みをしていきます。代表的な方法として、認知行動療法や森田療法があります。
マインドフルネス
不安症の方は、多くの場合「今」に注意を向けることができません。起きてしまうかもしれない「未来」の方向に強く注意を向けています。このような“心ここにあらず”な状態から抜けだし、注意を”今”に向けた状態を「マインドフルネス」といいます。
不安症の患者さんに対して行った研究でもマインドフルネスをある一定期間取り組んだグループは不安の強さが軽減したという報告※2もあります。まずは無理のない範囲でマインドフルネスを生活に取り組むことも、強い不安と上手に付き合っていくためにできることです。

日記をつける
不安の多くは、主観的なものの見え方をする中で生じてくる感情です。そのため、どうしても不安に圧倒される感覚を感じてしまうでしょう。客観的に周囲や自分に目を向けることができなくなってしまいます。
そこで、まずは自分が圧倒されるような強い不安を具体的に知ることから始めましょう。そして、不安や恐怖を感じることを否定せず、そのまま受け止めます。その上で、周囲や自分を観察した客観的な様子も書き加えておきましょう。
- 例)人前で声が震えても、聞いている人は特に変わった反応をしていなかった
- 例)家の鍵を閉めたかどうか不安だったが、帰宅したときには締まっていた
日記に書く内容はほんの1行でも構いません。書いてから1~2週間ほど期間を置いてから、再度日記を確認してみてください。自分の不安についての発見や、不安への理解を深めやすくなります。
不安症の改善:まとめ

不安を完全になくすのではなく、うまくコントロールしながら上手に付き合っていく、というスタンスで向き合っていくことが、不安症を改善する近道です。できることから取り入れてみてくださいね。
参考文献
※1カプラン臨床精神医学テキスト 日本語版第3版
※2 Effectiveness of mindfulness-based cognitive therapy in patients with anxiety disorders in secondary-care settings: A randomized controlled trial.
Ninomiya A, Sado M, Park S, Fujisawa D, Kosugi T, Nakagawa A, Shirahase J, Mimura M
Psychiatry and clinical neurosciences. 2020 Feb;74(2):132-139. doi: 10.1111/pcn.12960.