睡眠

人生や将来への不安で眠れないときの対処法

「眠りが浅い」「夜中に何度も起きる」「寝ても疲れが取れない」「起床時、熟眠感がない」……自分の人生や将来への不安があると眠れなくなる傾向があります。そんな悩みをお持ちの方に向けて、心の専門家である臨床心理士が不安で眠れないときの対処法を解説します。

現代人の睡眠の質は悪化傾向

不安

一昨年行われた調査※1では、新型コロナウイルス感染拡大以降、睡眠の質に変化が見られます。63.2%もの人が睡眠の質が悪いと感じていることがわかりました。具体的な悩みは、以下のようなものです。

  • 眠りが浅い
  • 夜中に何度も起きる
  • 寝ても疲れが取れない
  • 起床時、熟眠感がない

深い睡眠が十分に取れていない傾向があるようです。うまく眠れない原因が、自分の人生や将来への不安であることも少なくありません。コロナ禍で将来に対する漠然とした不安を抱えている人も多いのですが、SNSも不安を感じる理由の1つです。

現代は、SNSを通じて他人の人生を垣間見るような機会も増えました。友達や同世代、同じ境遇の人との生活を無意識に比較してしまう方も多いでしょう。しかし、無意識の比較はとても危険。自分の人生をネガティブに考えてしまう原因になります。

不安で眠れなくなるメカニズム

ひとり

明日の心配だけでも眠れなくなる日はあります。人生や将来についてなど漠然とした大きな心配事であれば、なおさら眠れなくなるでしょう。さて、不安があるとどうして眠れなくなるのでしょうか?ここでは不安と不眠の関連性を紹介します。

身に迫る危機を察知したとき、私たちは戦闘のための準備を始めます。心臓は心拍数を上げ、血圧を上昇させ、全身に力が入り、神経は過敏になる。実は、これが『不安』の状態です。このような状態で質のいい睡眠を取るのが難しいのは、簡単に想像できるでしょう。

それぞれの神経の働きが不安を生む

このような心身のモードの切り替えは、自律神経が深く関与しています。自律神経とは身体を調整する神経のことです。交感神経は主に身体の働きを促し、副交感神経は身体の働きを落ち着かせる役割を持ちます。

それぞれの神経が状況に応じて働くことで、私たちの身体を常にベストな状態にしようとします。本来であれば、夜眠る時間帯になると副交感神経が優位に働くのです。しかし、身体が戦闘モードになっているときは、交感神経が優位のままになってしまっていると考えられます。眠れるような身体に整えるためには、副交感神経を優位に働かせることが大切です。

人生や将来のことを考えて眠れないときの具体的な対処法

青い画像

それでは具体的な対処法をご紹介していきます。

眠れないときの対処法①:体をリラックスさせる、筋弛緩法を取り入れる

先述した通り、漠然とした不安がある中では身体が戦闘モードに入ってしまっています。そのため、全身には力が入って緊張状態が続いているのです。まずはこの全身の緊張を緩めて、身体の変化から「今は戦闘モードを解除しても大丈夫なときだよ」と脳に伝えてあげることが大切です。

筋弛緩法、正確には漸進性筋弛緩法というこの方法は、1930年頃に米国の精神科医エドモンド・ジェイコブソンが開発したリラックス法です。

体の各部位の筋肉を10秒間ぐっと緊張させたあと、ストンと一気にゆるめることを繰り返して、体の緊張をほぐしていきます。布団やベッドに横になったまま行うことができます。外出先などでは好きな部位ごとに行うこともできますが、後で説明する①~⑩の順で全身に対して行うとより効果的です。

基本動作(全ての部位で共通)

10秒間、力を入れ続ける→ストンと一気に力を抜き、力の抜けた感覚を20秒間味わいます。できれば呼吸も連動させて、力を入れるときには息を吸い、力を入れているときは呼吸を止めて(苦しくない程度に)、力を抜くのと同時に息をふーっと吐いてゆっくり呼吸をしましょう。

手順と流れ

上半身から始め、下半身に移っていくというイメージを覚えておいてください。

  1. 両手:両腕を伸ばし、手の平を上にして、親指を折って手のひらをギュッと握る(10秒間力を入れる)→手をゆっくり広げ、膝の上においてふーっと脱力(20秒間)
  2. 両腕:力こぶを作るように腕を曲げ、脇を締めてギュッと力を入れる(10秒間力を入れる)→腕の力をふーっと脱力(20秒間)
  3. 背中:両腕を曲げて背中の下に入れて、胸を開き肩甲骨をぐっと引きつける((10秒間力を入れる)→腕を元に戻してふーっと脱力(20秒間)
  4. 両肩をグッと上げ、耳付近に近づける状態をつくる(10秒間力を入れる)→両肩を下げてふーっと脱力(20秒間)
  5. 首:右側に首をひねって力を入れる(10秒間力を入れる)→首を元の位置に戻してふーっと脱力(20秒間)左側も同様に行う
  6. 顔:目と口をギュッとつぶり、奥歯を噛みしめて全てのパーツを顔の中心に集めるように力を入れる(10秒間力を入れる)→顔を緩めてポカンと口を開けて脱力(20秒間)
  7. お腹お腹に手を当て、お腹をへこませる。その後、その手を押し返すようにグッと力を入れる(10秒間力を入れる)→お腹を元に戻してふーっと脱力(20秒間)
  8. 脚の裏側:つま先までピンと足を伸ばし、足の下側の筋肉に10秒間力を入れる。(10秒間力を入れる)→つま先を元に戻してふーっと脱力(20秒間)
  9. 脚の表側:足を伸ばし、つま先を上に曲げて足の上側の筋肉に力を入れる(10秒間緊張)→脱力(15~20秒間)
  10. 最後に全身:①~⑨を一度に10秒間グッと力を入れて脱力、その感覚を20秒間味わう

一通り行うと15分程度です。全身の緊張を解くことができて質のいい睡眠を取ることができます。

眠れないときの対処法②:前頭前野を活性化して大脳辺縁系を鎮める

リラックス

不安を感じているときには、人間の脳の中でも「古代の脳」と呼ばれる本能を司る大脳辺縁系という領域が活性化しています。つくば大学が発表した研究※2では、この領域にある神経細胞に刺激を与えると、目が覚めてしまうということが明らかとなりました。

この大脳辺縁系の活動を落ち着かせる方法の一つとして、「前頭前野を活性化させる」という方法があります。前頭前野は、記憶や感情の制御、行動の抑制など、さまざまな高度な精神活動を司っている箇所。脳の中の脳とも呼ばれている重要な場所です。

この前頭前野を活性化させる方法の一つに瞑想があります。将来に意識を向けるのではなく、今現在を「あるがままを受け入れる」「今この瞬間」に意識を向けることが前頭前野を活性化させると言われています。また、寝る前の時間を慌ただしく過ごすのではなく、動作をひとつひとつゆっくりと行うことも前頭前野を活性化させると言われています。

下記の記事で有名なマインドフルネス瞑想のやり方を紹介していますので、よろしかったら参考にしてください。

自然
関連記事:マインドフルネス瞑想のやり方と得られる効果

眠れないときの対処法③:漠然とした将来の不安を見える化する

人生や将来について悩まれているときに、日常生活でも取り組める対処法もご紹介します。人生という壮大なテーマを考えるとき、どうしても抽象的になりがちです。自分の不安をもっと明確にするために、紙とペンを使って「不安の見える化」をすることをおすすめします。不安を以下の3つの分けてみましょう。

  1. 本当はわかっていること
  2. 明確にできること
  3. わからないこと

見える化をすることで、具体的に何を不安に思っていて、どのように行動を始めればいいかが見えてくる気がしませんか?

眠れないときの対処法:まとめ

気球

それぞれの対処法には相性があるので、試してみる中でご自身に合うものを見つけていってください。これからの自分の人生を考えると不安になることはこれからもあるかと思います。しかし、不安を抱けるということ自体、あなたはもう自分の人生に前向きに積極的に関わっている証拠です。まずはそんな自分を認めてあげてくださいね。

参考文献

※1ウーマンウェルネス研究会. 不安やストレスで夜まで考え事が続いて眠れない 新型コロナ感染拡大以降、6 割が睡眠の質低下を実感 睡眠リズムが乱れる秋冬は、就寝前の温め習慣でスムーズな入眠へ. (2020) https://digitalpr.jp/r/41375

※2Kodani S, Soya S, Sakurai T.(2017). Excitation of GABAergic neurons in the bed nucleus of the stria terminalis triggers immediate transition from non-rapid eye movement sleep to wakefulness in mice., Journal of Neuroscience. DOI: 10.1523/JNEUROSCI.0245-17.2017

この記事の著者

古山あかり
古山あかり Posted on

臨床心理士、公認心理師。東日本大震災の被災地や首都圏のスクールカウンセラーとして働き、司法関係や医療現場を経験。独立後、Hanacel合同会社を設立。個人セッションのほか、芸術・芸能関係のメンタルサポートも行なっている。