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人付き合いが苦手なのは病気?臨床心理士が解説

生涯をかけて避けられないのは、パートナーをはじめとして、仕事関係の人や友人を含めた人間関係です。しかし、この人との付き合いに苦手意識や苦痛を感じる方は多くいらっしゃいます。

「わたしは人見知りだから辛いのかな」「こんなに苦手なのは、私が病気だからかな?」と不安に思っている方もいらっしゃるかもしれません。あなたの人付き合いへの苦手意識はどこからくるのか、臨床心理士が解説します。

人付き合いが苦手だと感じる病気はあるの?

ネガティブ

結論からお伝えすると、病気の可能性もありますが、そうではない可能性もあります。

人との付き合いに苦手意識を感じる感じ方は人それぞれです。しかし、日常生活を送るのに支障をきたしてしまうほど苦痛を感じる場合は『社交不安症』の可能性があります。

ではどの程度、人との付き合いに苦しさを感じていたら社交不安障害の可能性があるのか……下にチェックリストを用意しました。どの程度当てはまるか、確認してみてください。

  • □人見知りがはげしい
  • □人前で緊張感が強い
  • □人前で顔面がこわばる   
  • □人前で体がこわばる       
  • □人と会話するのをおそれる          
  • □人と視線を合わせるのをおそれる              
  • □人前で汗が出ることをおそれる   
  • □人前で顔が赤くなることをおそれる          
  • □人前で声がかすれたり、声が出にくくなることをおそれる   
  • □人前で声がふるえることをおそれる          
  • □人の視線が気になる       
  • □人が話していると自分のことを悪く言っているように感じる              
  • □人のちょっとしたしぐさが自分にあてつけているように感じる          

上記のチェックリストに多く当てはまり、どれかに強く苦痛を感じている場合は社交不安症の可能性も考えられます。

社交不安症とは?その原因も解説

悩み

社交不安症とは、不安を主とする不安症の一種です。人前で注目が集まるような状況で「何か失敗して自分が恥をかくのではないか」と心配や強い不安を感じます。社会不安障害、あがり症、赤面恐怖症、対人恐怖症などと言われることもあります。

具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

精神症状

他人との交流や人前で何らかの行為をおこなう場面で、強い不安や恐怖を感じます。そして、他人から「不安を感じている」と気づかれることを恐れます。

身体症状

主に自律神経症状が見られます。不安を感じたときに、手足・声の震えや動悸、発汗や赤面、腹部の不快感や息苦しさなどの身体症状があらわれます。

社交不安症になってしまう原因

ひとり

社交不安障害の原因は、明確にはわかっていません。しかし、生物学的な体質や生育環境が発症に大きく影響すると考えられています。

生物学的な体質が原因で社交不安症になってしまう

生物学的な体質とは、不安を生み出しやすい体質です。言い換えると、不安を生む脳の領域が過活動状態になりやすい方がいらっしゃいます。また、社会的な状況下では戸惑ってしまい、何もできなくなる生物学的な体質がある方もいます。

このような体質を持つ方の『不安を生む脳の領域』が病的な過活動状態となると、後日似たような場面に遭遇したときに再び強い不安が生じやすくなってしまうようです。

生育環境が原因で社交不安症になってしまう

以下のような生育環境が、社会不安障害の危険因子であるとの報告があります。

  • 過保護
  • 過度のしつけ
  • ネグレクトや無頓着で情緒的な関わりが少ない
  • 虐待
  • 両親の不仲
  • アルコール依存の家庭

このように、生まれつきの体質ではなく育ってきた環境に起因していることも考えられるのです。

社会不安症とアダルトチルドレンの関係

社会不安症になってしまう可能性のある家庭環境で育った子どもは、大人になったあとアダルトチルドレンの状態になるケースもあります。

幼少期の養育環境が過酷であると、トラウマによって成人後も否定的な自己像を持ちやすいのです。また、極端な人間関係に陥りやすくもなってしまいます。

このような環境下にあった人は『他者からの否定的評価に対する恐れ』という不安を意識せずとも抱いているケースが少なくありません。このような恐怖に付随して様々な精神症状、身体症状が生じてくると考えられています。

内面が非常に不安定になりやすく、生きづらさを感じ、ときには精神障害と診断される場合もあるのです。その診断されるもののひとつに、この不安症の一種である社交不安症があります。

社交不安症を治したい人におすすめの方法

深呼吸

避けられない人との付き合いをしていく上で、少しでも回復していくためにできることをご紹介します。この方法は、病気の可能性がなく、なんとなく人付き合いが苦手だなと感じる方にも取り組んでいただけます。

①:自分なりのリラックスする方法を知る

先述したとおり、人と関わる中で不安が強くなる方の中には、不安を司る脳の領域が過活動状態になりやすい方がいらっしゃるとされています。不安を司る脳の領域の活動を鎮めるためは、なるべくリラックスすることです。

どんな形でも良いので、あなたがリラックスできる行動を日常に取り入れてみてください。どんな行動がリラックスできるのかわからない方には、簡単に取り入れられるバタフライハグがおすすめです。

バタフライハグ

バタフライハグのやり方は、両腕を胸の前で蝶のようにクロスさせ、左右の胸から肩のあたりを手と指で、心地よいリズムで優しく「トントン」とたたくだけです。左を1回→右を1回→左を1回→右を1回→……というふうに、左右交互にトン、トン、トン、トンと1回ずつゆっくりたたきます。

とても簡単ですが、不安を和らげる効果を持つことが確認されている有名な方法です。腕をクロスした形が蝶々のように見えるところから、バタフライハグと名付けられています。人といるときに不安を強く感じたら、まずはバタフライハグをしてみてください。

②:マインドフルネスをおこなう

社交不安症を含む不安症全般に治療効果が確認されているのが、マインドフルネスです。

心理療法として取り入れられているマインドフルネス・ストレス低減法をはじめ、いくつかのマインドフルネスの方法で、社交不安症状の改善や不安を感じる場面の回避行動が減少したと報告されています。日々、マインドフルネスを行う習慣をつけることも改善のためにできる方法だと考えられます。

自然
関連記事:マインドフルネス瞑想のやり方と得られる効果

③:医療機関を受診する/カウンセリングを受ける

診断

深刻な場合は医療機関の受診もひとつの方法です。

投薬治療だけではなく、集団心理療法や個人のカウンセリングも治療に向けての取り組みのひとつです。中でも、認知行動療法は『他者からの否定的評価に対する恐れ』という考えを、自分の人生にとってより安全なものへ変えていくことができる心理療法でもあります。

人付き合いが苦手な人の改善方法:まとめ

ハート

『人付き合いの苦手さ』への深刻さは、人それぞれ異なります。ですので、必ずしも医療機関をおすすめするわけではありません。そのため、まずは人付き合いの苦しさがどこからくるのか、どうして苦しいと感じているのか、と自分を理解することから始めてみましょう。その上で、この記事で紹介した改善方法のいずれかを試してみてください。

なお、この記事を執筆するにあたり以下の文献を参考にさせていただきました。

  • 中村敬(著), 保健同人社「神経症を治す―患者さんと家族、同僚の方へのアドバイス」
  • ‎日本精神神経学会(監修)医学書院「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」
  • 樋口輝彦・野村総一郎(編)日本評論社「こころの医学事典」
  • 野田 昇太, 城月 健太郎:社交不安症におけるマインドフルネスの作用機序と介入プログラム, 武蔵野大学心理臨床センター紀,17,p37-44

この記事の著者

古山あかり
古山あかり Posted on

臨床心理士、公認心理師。東日本大震災の被災地や首都圏のスクールカウンセラーとして働き、司法関係や医療現場を経験。独立後、Hanacel合同会社を設立。個人セッションのほか、芸術・芸能関係のメンタルサポートも行なっている。