近年、『大人の発達障害』という言葉に注目が集まっています。カウンセリングの中でも、「うつ病になったことがきっかけで、治療中に初めて自分が発達障害だと知った」とお話しされる方は少なくありません。今回は発達障害とはどのようなものなのか? 大人の発達障害はどのように困ってしまうのか? ご紹介いたします。
大人の発達障害とは?

そもそも発達障害とはどのようなものでしょうか。
発達障害とは精神疾患や家庭環境ではなく、生まれつきの脳の情報処理や制御などの機能発達の偏りが原因で、コミュニケーションや対人関係、日常生活に困難が生じる状態です。生まれもった脳の特性が原因で生じる困難なので、後天的に発症するものではありません。
ではなぜ、大人になって初めて発達障害だと診断されている人が増えているのでしょうか。
かつては知的障害(知的機能の障害で18歳未満に診断される)を伴って生じるものだと考えられていたため、知的機能で困難がみられない場合は、発達障害と診断されなかった時代がありました。
学生時代の勉強面からではわからないことも
しかし、現在では発達障害であっても知的障害を伴わないケースも多いことがわかってきています。そのようなケースでは、学生時代の勉強には全く支障がないことも少なくありません。むしろ、人よりも高い成績を収めることもあるくらいです。コミュニケーションが苦手だとしても、困っていることに気づかれずに大人になるケースが多くあります。
ですが近年、様々なメディアで大人の発達障害に関する特集が組まれ始めました。有名人が自身の障害を公開したりすることで、初めて「自分が困っていることは、発達障害の特性から来ているのかもしれない」と気づいたり、周囲からの指摘で初めて専門家を受診するケースも増えてきたと言われています。
大人の発達障害は二次障害がきっかけでわかることが多い
発達障害の特性のひとつとして、環境の変化に強くストレスを感じる方が多くいらっしゃいます。そのため、日常生活を送る上では支障がない程度だった方も、大学へ進学したり就職して社会人になったりの環境の変化によって、以前から感じていた困難が、日常生活を送る上でも支障が生じるぐらい強く現れることがあるのです。
環境の変化にうまく適応できないまま頑張り続けてしまう方も大勢いらっしゃいます。すると、本人には自覚されていない発達障害に加えて、二次障害が生じるリスクがあります。
ここでの二次障害は、不安障害やうつ病、強迫性障害などの精神疾患です。大人の場合は、この二次障害がきっかけで医療機関へつながるケースが多くみられます。
大人の発達障害の主な症状と特徴

それでは具体的にどのような困りごとが多いと発達障害の可能性が考えられるのでしょうか? 大きく3つに分類されます。それぞれよくある困りごとをチェックリストにしてご用意しています。
自閉症スペクトラム障害(ASD)
自閉スペクトラムの中心となる特性は、「社会コミュニケーションの困難」と「限定された反復的な行動」の2つです。
社会コミュニケーションの困難とは、日常的な会話のキャッチポールができない、人の表情や場の空気を読むことができない、知らない人の中に置かれても平気なように見えるなどが挙げられます。会話を行う際に表情の変化が乏しかったり、ジェスチャーが少ない様子もよくみられます。
また、柔軟性に欠ける傾向があるため、自分なりのルールを崩さないようにしたり、決まったルーティンを好む傾向もあります。
自閉症スペクトラム障害(ASD)チェックリスト
- 会話が続かないことが多く、人とのコミュニケーションが難しく感じる
- 相手の気持ちを察するのは苦手
- その場の空気を読むことが難しい
- 思ったことをそのまま口に出してしまう
- 急な予定変更があるとパニックになってしまう
- 指示が曖昧だと混乱する
- 先の見通しをたてるのは苦手
- 仕事で同じようなミスを繰り返してしまう
- 自分のペースがあり、他者と合わせるのが苦痛である
- 特定の匂い、音など特定の感覚に対して過敏性がある
- 肌触りの良し悪しにはこだわりがある
- 相手との適切な距離感がわからない
- 子供の頃から「変わっている」「わがまま」などと言われていて辛かった
当てはまる項目が多い場合、自閉症スペクトラム症の可能性が考えられます。
注意欠如・多動性障害(ADHD)

注意欠如・多動性障害はADHDとも呼ばれ、注意力、衝動性、多動性のバランスやコントロールに特徴が見られる障害です。
注意欠如・多動性障害には、落ち着きのなさが目立つ『多動・衝動優位型』、不注意の症状が目立つ『不注意優位型』、いずれもが強くみられる『混合型』があります。女性の場合は不注意優勢型が多く、気づかれずにいるケースもたくさんあるようです。
注意欠如・多動性障害(ADHD)のチェックリスト
- 衝動買いがやめられない
- 片付けがひどく苦手
- 忘れ物が多い
- 家事をうまく回せない
- 段取りが悪い
- 用事を先送りすることが多い
- 約束や期日が守れない
- 単純作業・雑用が苦手
- 作業途中のものを忘れてしまうことが多い
- 行動力はあるが途中で挫折することが多い
- 人との距離感が近すぎると指摘される
- 話がコロコロかわると指摘される
当てはまる項目が多い場合、ADHDの可能性が考えられます。
学習障害(LD)・限局性学習障害(SLD)

学習障害とは知的発達の遅れや聴覚・視覚機能の問題がないにもかかわらず、『読む』『書く』『計算する』などが極端に苦手である発達障害です。LDの略称で呼ばれることもあり、医学的には限局性学習症/限局性学習障害(SLD)の名称を使用する場合も多いです。
症状としては、まったく読めない・書けないのではなく、読みにくさ・書きにくさの程度や症状の現れ方も人によってさまざまです。また知的発達や聴覚・視覚の障害がないことが多いため、周りの人からは「怠けている」と誤解されたり、本人が「自分の努力不足」と思い込んだりしていることが少なくありません。
学習障害には主に、読むことが苦手な『読字障害(ディスレクシア)』、書くことが苦手な『書字表出障害(ディスグラフィア』、算数・計算が苦手な『算数障害(ディスカリキュリア)』の3種類のタイプがあります。それぞれについてよくみられる困りごとをチェックリストしています。
読字障害(ディスレクシア)のチェックリスト
- 一文字ずつ区切る読み方(逐次読み)をするため、音読の速度が遅い
- 文字や行を読み飛ばす
- 語尾や文末を読み間違える
- 「ろ」や「る」など形の似ている文字を見分けにくい
- 英語、特にアルファベットを読むことが苦痛
- 文字が紙の上で動き回るように見える
書字表出障害(ディスグラフィア)のチェックリスト
- 鏡文字になる
- 漢字をなかなか覚えられない(覚えても忘れやすい)
- 人の書いたものを書き写すのが苦手
- 子どもの頃、板書をするのが苦手だった
- ひらがなやカタカナでも間違えることが多い
算数障害(ディスカリキュリア)のチェックリスト
- 数を数えるのが苦手
- 一桁の足し算・引き算の暗算が苦手
- 繰り上がり、繰り下がりの計算が苦手
- 九九がなかなか覚えられなかった
- 図形を模写することが苦手
- 時計が読めない、時間を認識するのが苦手
当てはまる項目が多い場合、なんらかの学習障害の可能性が考えられます。
いずれかのチェックリストで当てはまる項目が多く、なお社会に出て自信を大きく失っていたり、慢性的なストレスを感じている状態が続いていたりする方は、一度専門の病院へかかってみることをおすすめします。
大人の発達障害:まとめ

病院には発達検査というものがあります。「自分は何に困りやすいのか」を知れる発達検査を受ければ、自分への理解を深めることができるでしょう。
気になる方は、近所にある精神科、心療内科、発達障害外来といった専門科を調べてみてくださいね。なお、この記事は以下の文献を参考にしました。
- 大島郁葉・鈴木/香苗(著), 金剛出版「事例でわかる思春期・おとなの自閉スペクトラム症ー当事者・家族の自己理解ガイド」
- 梅永雄二(著), 主婦の友社「よくわかる大人のアスペルガー」
- 梅永雄二(著), 朝日新聞出版「大人のアスペルガーがわかる」
- 司馬理英子(著), 主婦の友社「よくわかる大人のADHD」
- 田中康雄(著), すばる舎「もしかして私、大人の発達障害かもしれない!?」