大人になって独り立ちをしても、親との関係は切れることなく続いていく方がほとんどです。その中で、子どもの頃の親からの育てられ方によって、長きにわたって精神面に影響を受けて、生きづらさを抱えるケースが多くあります。
その中でよく聞く「毒親」とは具体的にどのような存在であり、どのような影響を受けるのでしょうか。今回は毒親の特徴やその影響について解説します。
毒親とは

毒親(toxic parents)にはっきりとした定義はありませんが、一般的には「子どもを支配したり、傷つけたり、価値観を押し付けたりする、子どもにとって『毒』になる親のこと」とされています。
本来、学術的な言葉ではありませんが、1989年に医療コンサルタントのスーザン・フォワードが著書「毒になる親 一生苦しむ子ども』の中で発表した言葉です。日本でも話題になり、広く一般的に使われるようになってきました。
毒、という表現は過激に映るかもしれませんが、具体的には「子どもの精神状態にネガティブな影響を与える養育態度(子育ての態度)」といえます。
「自分の親は毒親だった」と答えた割合は6割以上
2021年に行われたとある調査※1によると、『自分の親が毒親だった』と回答する人の割合は全体の6割以上。『人生がうまくいかない悩みTOP3』のひとつにも『親の扱い方や関係』という回答があるように、多くの人が大人になってからも色濃くその影響を受けていることがうかがえます。
では、「毒親」とされる態度で親から育てられた人には、その後の人生にどのような影響があるのでしょうか。
毒親育ちが抱えるネガティブな影響

「毒親」とされる環境で育てられた子どもは、大人になってからもさまざまな生きづらさを抱えている傾向があります。具体的な悩みを、いくつかご紹介しましょう。
- 対人関係が歪んでいたり、不安定になる
- 依存心が強く、自立が困難
- うつ病をはじめとするさまざまな精神疾患を発病する
- 離婚率の上昇
- 見捨てられることに強い不安を抱く
- 「自分にされたことはしたくない」と思っていても似たような子育てとなり苦しむ
- 自分や他者を愛すことがむずかしい
- 自尊感情や自己肯定感が低い
このようなさまざまな形で影響を受けて、悩みを抱えている方が多くみられます。それでは毒親と言われる養育者の特徴を、チェックリストを使いながら解説します。
毒親のタイプ別チェックリスト

「子どもに“毒”となる」と言われる関わり方は、子どもを親自身と同一化して捉えていることが多く、不健全なパターンに陥る傾向があります。
主に5つのタイプに分けられるので、それぞれのタイプをチェックリストを通して特徴を解説します。※2
1. 過干渉型
「あなたのためを思っている」と言いながら、子どもに過干渉するタイプです。親は自分自身に強い不安や恐怖心があるため過干渉となり、子どもの精神的な成長を妨げます。
- □あなたに決断する能力がないと思っている
- □成人してからも外出するのに親の許可、もしくは親の把握が必要だ
- □自分でできる家事(部屋の掃除など)や、自分の身の周りの世話は全て親がやってくれる
- □進学・就職・結婚・住処に対して、親に干渉もしくは制限されたことがある
- □自分の友達や恋人に、許可なく勝手に直接連絡を取ることがある
- □子どものセンスや好みを否定する
- □不条理なことも「あなたのため」と主張する
- □服装、髪型、持ち物まで、親から厳しく指定される
- □友人や交際相手について文句を言ったり、交際を妨害したりする
- □子ども部屋に勝手に入ってチェックしたり、子どもの私物を処分する
- □結婚相手について反対し、親が決めようとする
- □ある程度の年齢になっても手紙や日記、友だちとのメッセージのやりとりをチェックされる
2.責任放棄型

愛情や安心感で満たし衣食住や健康を保障する子どもへの責任を放棄して、自分を一番に優先するタイプです。親の手を煩わせずひとりでいることを子どもに求め、突き放します。ネグレクト(育児放棄)もこの責任放棄型に入ります。
- □親からの愛情を感じたことがない、もしくは放置されているように感じる
- □病気やケガを訴えても親に無視されたり放置されてしまったことがある
- □ギャンブル、薬物、アルコール、宗教など、親が何らかの依存症を抱えており、親のために、お金、薬、お酒を手に入れる協力をしたことがある
- □友達の物を壊したり暴力を振るったり、本来注意されるべきことをしても、親は自分を叱らない、もしくは見て見ぬふりをされる
- □親は仕事や趣味、ボランティア、宗教などで忙しく、いつも不在だった
- □親は精神的に病んでいるか、重いストレスに苦しんで自分のことで精一杯のように見えた
- □「私は大変なの」と日常の愚痴や不満、世話をできない言い訳を子どもに聞かせる
- □子が親を労り、慰め、励ますが、その逆はない
- □「あとにして」「あっちにいってなさい」と子どもを追い払う
- □家族や他人から子どもが虐待されていても、見て見ぬふりか、その場を離れてしまう
- □抱きしめられたり、手をつないだりした記憶があまりない
3.虐待型

子どもを圧倒的な大人の力でねじ伏せてコントロールしようとします。親自身の劣等感やフラストレーション、仕事のストレスを解消しようとするタイプです。
家は常に恐怖で支配されている感覚を持ち、子どもは「抵抗しても無駄だ」と学習性無気力を感じる傾向があります。
- □些細なことですぐキレるが、そのタイミングや理由が不明で、主張に矛盾が多い
- □お前はクズだとばかにする
- □容姿をばかにする
- □産むんじゃなかったと平気でいう
- □常に兄弟間で比較され、できないことを強く差別される
- □暴力や暴言で「○○しないとこうなるぞ」と脅かす
- □暴力や暴言を「おまえが悪い」と自分でなく、子どもや配偶者に責任転嫁する
- □虐待を愛情や教育だと正当化し「なぜそれがわからないのか」とさらに激昂する
- □両親が不仲で、激しい口論や大きな物音が伴う夫婦喧嘩が頻繁にあった
- □家族や他人への恨み、妬み、憎しみ、怒りの感情を子どもにぶつける
- □「黙って聞け」「我慢しろ」ばかりで、話し合いにならない
- □外面がよく、家庭外での評判はいい
4. 搾取型

子育てを投資と考え、育ててあげた恩を主張するタイプです。子どもは幼い頃から「親の道具」として、留守番や家事、育児・看護・介護、ときには現金収入を得る労働を強いられます。
- □「もう○歳だから」「男(女)の子だから」何ができて当たり前と家事に協力させる
- □親やきょうだいの面倒をみるのは、子どもの務めだと何度も言い聞かされる
- □幼い頃から「家族の絆」や「育ててもらった恩」を子どもにくり返し話す
- □家計や家族の問題を子どもに相談したり、愚痴を言う
- □親には子どもの所有物をいかようにできる権利があると思っている
- □お金のかかる学校や習い事、趣味は反対された
- □親やきょうだいのために、子どもの所有物や資金を差し出すように言われる
- □子どもに家計負担や仕送り、借金の返済を求める
- □家族は皆、支え合っていかなければいけないと常に言い聞かされる
5. 悲劇のヒロイン型
常に親自身が可哀想な存在かのように振る舞い、その拠り所を子どもに求めるタイプです。
- □自分が被害者であるかのようにふるまう
- □親に「あなたがいないと私は駄目なの」というようなことを言われる
- □父親、祖父母、近所の人、職場の人間関係の愚痴や嘆きを、延々と聞かされることがある
- □親の愚痴や嘆きに対して、慰めることを求められる
- □子どもが親を突き放そうとすると、死を仄めかす
- □子どもが親の思い通りにならないと、泣いたり、つらそうにしたり、罪悪感を持たせるような振る舞いをする
- □親を満足させるために、自分のやりたくないことをやらされる、もしくは思ってもいないことを言わされる
- □親を心配しないことを責められる
毒親は以上の5つのタイプに分かれますが、あなたの親に当てはまる項目はありましたか?
毒親との関係・影響が深刻であれば専門家へ相談することも一つの方法

幼い頃から受けている養育態度は、その子どもの生涯に渡って影響を受け続ける場合も少なくありません。
「自分をここまで育ててもらったのに、自分の生きづらさを毒親のせいだと思うのは、親に悪い」と罪悪感を覚えることもあるかもしれません。ですが、自分の生きづらさの原因と向き合うことは、今後の「自分の人生」にとってとても重要な機会です。
- 親の養育態度が上記に当てはまっている
- メンタル面の不調が長きにわたっている
この2点に共に当てはまるのなら、医療機関やカウンセリングルームなどで、専門的な治療を受けていく必要があります。
最終的には、物理的にも精神的にも親と決別をしていく必要がありますが、そのためには、誰かの手を借りるタイミングもくるかもしれません。まずはあなたが親から受けた影響と、影響を受けたことでの現状を認識することから始めてみましょう。
参考資料※1:インターネット調査「あなたの親は「毒親」かも?親子関係について調査 「親が毒親だった」6割以上! 約4割が「親の扱い方や関係に一抹の不安」 人生がうまくいかないのは「こじらせ親子関係」に原因が!?」
合同会社serendipity 調べ
※2:スーザン・フォワード(著), 玉置 悟(訳) 講談社+α文庫「毒になる親 一生苦しむ子供」